同じ1,000円の商品を買うとします。
Aさんは現金で1,000円。
Bさんはクレジットカードやコード決済で1,000円。
支払う金額は同じなのに、Bさんにはポイントが付くことがあります。
そこで、こんな疑問が浮かびませんか?
「同じ値段なら、ポイントが付かない現金払いって損なんじゃない?」
しかも、キャッシュレス決済を導入しているお店は、決済事業者などに手数料を支払っています。
だったら、そのコストも商品の価格に含まれているのでは?
そして現金で払っている人も、そのコストを間接的に負担しているのでは?
今回は、このちょっと気になる「キャッシュレスのお金の流れ」を、公的資料をもとに追いかけてみます。
先に結論を言うと、
「現金客がキャッシュレス客のポイント代をそのまま払っている」とまでは言えません。
ただし、加盟店手数料は店舗にとって実際の事業コストです。
そして、同じ商品・同じ販売価格で、追加費用なくポイントを受け取れるのであれば、その買い物単体ではキャッシュレス払いにポイント分の経済的メリットがあります。
では、そのポイントはいったいどこから来るのでしょうか。
日本では支払いの半分以上がキャッシュレスに
まず、日本ではキャッシュレス決済がどれくらい使われているのでしょうか。
経済産業省によると、2025年のキャッシュレス決済比率は、
58.0%
金額では、
162.7兆円
となりました。
つまり、経産省の算定方法では民間最終消費支出に対するキャッシュレス決済額の割合が、すでに半分を超えています。
その162.7兆円の内訳は、
- クレジットカード:82.7%(134.6兆円)
- コード決済:10.2%(16.6兆円)
- 電子マネー:3.7%(6.0兆円)
- デビットカード:3.4%(5.5兆円)
です。
金額ベースでは、現在もクレジットカードがキャッシュレス決済の大きな割合を占めています。
そこで、ここからは分かりやすくクレジットカードを中心にお金の流れを見てみましょう。
お店はキャッシュレス決済に手数料を払っている
お客さんがクレジットカードで1,000円を支払ったとします。
しかし、お店が何のコストもなく、その1,000円をそのまま受け取っているわけではありません。
店舗と契約する決済会社などに対して、店舗側には加盟店手数料というコストが発生します。
公正取引委員会の2022年の調査では、回答した加盟店の加盟店手数料率は単純平均2.70%、中央値2.8%、最頻値3.0%でした。
ただし、これは当時の調査対象店舗の結果であり、実際の料率は店舗や契約、決済サービスなどによって異なります。
たとえば、仕組みを理解するために加盟店手数料を仮に3%としてみましょう。
1,000円 × 3% = 30円
店舗にとっては、1,000円のカード決済に対して30円相当の決済コストが発生する計算です。
※3%は説明のための仮定です。すべての店舗に3%が適用されるという意味ではありません。
しかも、決済の裏側は「お店→カード会社」という一本の単純な流れではありません。
カードを発行する側、加盟店と契約する側、国際ブランドなど複数の主体が関係します。公正取引委員会と経済産業省も、加盟店手数料やその中に関係するインターチェンジフィーなどについて調査・情報公開を進めています。
じゃあ、その手数料は商品価格に乗っている?
ここが今回、一番気になるところです。
お店からすれば、加盟店手数料は間違いなくコストです。
商売では、
仕入れ代、
人件費、
家賃、
電気代、
物流費、
広告費……
さまざまなコストを考えながら価格や利益を設計します。
その中にキャッシュレス決済のコストが存在する以上、加盟店手数料が店舗経営や価格設定と無関係とは言えません。
実際、公正取引委員会の調査でも、クレジットカード導入に伴う加盟店手数料は店舗側の重要な論点として扱われています。さらに、公取委の有識者意見交換会では「加盟店が負担する手数料が間接的に消費者にも影響している」との意見も出ています。これは公取委自身が「現金客がポイント代を負担している」と認定したものではありませんが、決済コストと消費者が無関係ではないという論点は示されています。
ただし、ここで大事な注意点があります。
「コストが経営や価格設定に影響する」ことと、「1,000円の商品に手数料分が30円上乗せされている」ことは同じではありません。
たとえば1,000円の商品があったとして、
「このうち20円が家賃」
「15円が電気代」
「25円がキャッシュレス手数料分」
というように、販売価格を一つひとつ分解できるわけではありません。
価格は競合店の価格、需要、原価、ブランド戦略、利益率など、さまざまな要素から決まります。
したがって、
「キャッシュレスのコストも店舗経営に影響する」
とは言えますが、
「現金客が商品価格を通じてポイント代を○円負担している」
とまでは特定できません。
では、ポイントのお金はどこから出ている?
次の疑問です。
クレジットカードで支払うと1%還元などのポイントが付くことがあります。
このポイントはどこから来るのでしょうか。
ここで、
「加盟店が払った手数料が、そのまま利用者のポイントになっている」
と考えたくなります。
でも、実際はそこまで単純ではありません。
カード会社の事業には加盟店側から得る収益だけでなく、カード商品によっては年会費や分割払い・リボ払いなどに関係する収益もあります。
一方で、カード発行・システム運営・不正利用対策・顧客サービス・ポイントなど、さまざまなコストも発生します。
そのため、
「あなたが受け取った10ポイントのうち○円は、この店が払った加盟店手数料から来た」
という形で結び付けることはできません。
ポイント制度は、カード会社や決済事業者が利用促進などのために設計しているサービスの一つ、と考えた方が実態に近いでしょう。
じゃあ現金客は、キャッシュレス客を支えているの?
ここまでを整理してみます。
分かっていること
店舗はキャッシュレス決済に伴うコストを負担しています。
言えること
そのコストは、店舗の経営や価格設定に影響する可能性があります。
言えないこと
「現金客がキャッシュレス利用者のポイント代を○円負担している」と個別に特定することはできません。
つまり、
「現金客がキャッシュレス客のポイントを払っている」
と断言するのは言い過ぎです。
でも、
「現金客にはキャッシュレスのコストなんて一切関係ない」
とまで言い切るのも適切ではありません。
店舗にとって加盟店手数料が事業コストである以上、そのコストは最終的に店舗全体の収益構造の中で処理されるからです。
ここが今回のポイントです。
でも、現金だって「無料」ではない
ここで立場を逆にして考えてみましょう。
「じゃあ、お店は全部現金払いにすれば手数料ゼロで得じゃない?」
実は、そうとも限りません。
現金を扱うにもコストがあります。
たとえば、
- レジで現金を数える
- 釣り銭を準備する
- 売上金を集計する
- 現金を保管する
- 銀行へ入金する
- 現金を輸送する
- 過不足や盗難などに対応する
こうした作業には人件費や設備費などがかかります。
経済産業省も、キャッシュレス推進の社会的意義として「現金決済に係るインフラコストの削減」や「業務効率化/人手不足対応」を挙げています。
過去の経産省関連資料では、現金決済インフラの維持について、年間約1.6兆円を超える直接的な社会コストが発生しているとの試算も紹介されています。
ただし、これは過去の一定の前提に基づく試算なので、「現在も毎年1.6兆円かかっている」という意味ではありません。
さらに、キャッシュレスにも当然、システムや端末などのインフラコストがあります。経産省の検討資料でも、現金・キャッシュレスの双方にインフラコストがあることが示されています。
つまり、
現金=無料
キャッシュレス=有料
という単純な構図ではないのです。
結局、同じ価格ならキャッシュレスの方が得?
では、最初の疑問に戻りましょう。
1,000円の商品があります。
現金でも1,000円。
カードでも1,000円。
カードなら1%相当のポイントが付く。
追加の手数料もありません。
この条件だけを比べるなら、
その買い物単体では、ポイントを受け取れるキャッシュレス払いの方に経済的メリットがあります。
1%還元なら、1,000円の支払いで10円相当。
年間100万円を同じ条件で決済すれば、単純計算では1万円相当です。
これは「現金は悪い」という話ではありません。
同じ価格で受けられる特典が片方にだけあるなら、その特典を受け取る側の方が、その取引では有利
というだけの話です。
ただし「キャッシュレスなら必ず得」でもない
ここで終わると、
「じゃあ全部キャッシュレスにすればいいじゃん」
となりますが、そこにも例外があります。
たとえば現金払いに割引がある場合。
現金なら5%引き、カードなら1%ポイント還元なら、単純な金額比較では現金割引の方が大きくなります。
また、ポイントには有効期限や利用条件がある場合もあります。
年会費が必要なカードなら、獲得ポイントだけでなく年会費も含めて考える必要があります。
そしてもう一つ重要なのが、ポイントのために余計な買い物をしないこと。
1%ポイントをもらうために予定外の1万円を使えば、100円相当のポイントを得るために1万円を支払うことになります。
ポイントは、
「買う理由」ではなく、「どうせ買うものを少し有利に払う仕組み」
くらいに考えるのがちょうどいいでしょう。
自分の場合はどう考えればいい?
難しく考える必要はありません。
買うものが決まっていて、
現金とキャッシュレスの販売価格が同じ。
さらに、
キャッシュレス利用による追加負担がなく、ポイントが付く。
この条件なら、ポイント分のメリットを受け取る選択肢があります。
逆に、
現金割引がある、
ポイントより大きな別の特典がある、
年会費などのコストが大きい、
キャッシュレスだと使いすぎてしまう、
といった事情があるなら、単純に「ポイント還元率」だけで決める必要はありません。
大事なのは、
「現金派かキャッシュレス派か」ではなく、自分が払う総額と受け取るメリットを比べること。
これです。
まとめ|現金客がポイント代を払っている、とは言い切れない。でも……
今回の疑問を整理すると、
「現金客がキャッシュレス客のポイント代をそのまま負担している」
と断定することはできません。
店舗が支払う加盟店手数料と、利用者が受け取るポイントを1対1で結び付けることはできないからです。
一方で、加盟店手数料は店舗にとって実際の事業コストです。
そのコストが店舗の価格設定や利益に影響する可能性まで否定する必要もありません。
そして消費者側から見れば、もっとシンプルです。
同じ商品・同じ販売価格で、追加費用なくポイントが付くのであれば、その買い物単体では、ポイントを受け取れるキャッシュレス払いに経済的メリットがあります。
ただし、現金にもコストがあり、キャッシュレスにもコストがあります。
だから、
「現金=損、キャッシュレス=得」
と決めつけるのではなく、
「同じ買い物なら、自分が実際にいくら払い、何を受け取れるのか」
で考える。
キャッシュレス時代の支払い方法は、それくらいシンプルに考えていいのかもしれません。
参考・一次情報
- 経済産業省「2025年のキャッシュレス決済比率を算出しました」
- 経済産業省「キャッシュレス」
- 公正取引委員会「クレジットカードの取引に関する実態調査について」
- 公正取引委員会・経済産業省「クレジットカードのインターチェンジフィーの標準料率の公開について」



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